小 熊 座 句集 『霜の聲』抄 佐藤 鬼房
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           句集  霜の聲             昭和26年の「名もなき日夜」頃の鬼房




       句集 『霜の聲』抄 (自選句)  平成4年〜6年 佐藤 鬼房


        楽隊が来る雪穴を潜りぬけ
        
        少年の斑気(むらき)を宿しゐる畦火

        雨樋の雨の奔流三鬼の忌

        東京に出て馬刺(ばさし)食ふ花の雨

        羽化のわれならずや虹を消しゐるは

        首こきと鳴る骨董の扇風機

        シベリヤで死にたる青い月下蝶

        日日が旗北へ寒流おし黙り
                
        霜夜なり胸の火のわがあら蝦夷(あらえみし)
             王化に服さねものをあら蝦夷とよんだ
             あら蝦夷のあらの漢字ナシ

        山河荒涼狼の絶えしより

        いつかまた会ふ日が来るよてんぼ蟹
         註・てんぼ蟹は漸まねきのこと 東北方言で片輪の手をてんぼといふ

        菜の花を食ひすぎて脳毀れたる

        わけもなく思ひ屈せり海朧

        風音を聞き分けてゐる花童女

        牛頭馬頭を手懐けて野に遊びけり

        飛ぶならば海越えて飛べ楓の実

        原民喜生きをり酷暑薄暮の木

        耳鳴りの月下たどれば被爆の木
     
        縄文の漁(すなどり)が見ゆ藻屑の火

        病む母を騒がしてをく夕月夜

        老衰で死ぬ刺青の牡丹かな

        はらわたの腐りもせずに寝茣蓙かな

        体内に氷雨が溜まる溜めて置く

        秘仏とは女体なるべし稲の花

        石をもて打ちし蠍の尾が天に

        白雁を待つ頽齢の身を起こし
       
        花野ゆく金伽羅(こんがら)童子従へて
          
        わが胸の落葉を拉(しだ)く鴻(おおとり)

        海嶺はわが栖なり霜の聾

        晩涼の漣を生む拇指(おゆび)かな



  
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